始まりはSNS - 十二輪のタルト SIDE STORY -

Photo by Jun Honda

はじめまして。この度「十二輪のタルト」 に参加しましたLykke cafe所属のデザイナー、形山佳之です。
本企画ではタルトのテーマ選定からビジュアルに至るまでのディレクションとWebデザインや装丁などを担当しました。
私たちは山口県下関市で「Lykke cafe」という小さなカフェを営んでいます。
「カフェにデザイナー?」
と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。cafeは私たちが運営する事業のうちの1つです。
私たちは四人からなる「Paracraf」というグループでカフェ「Lykke cafe」、美容室「Areha」、デザイン事務所「Ultica」の3つの事業が互いに得意な能力を発揮しながら日々、モノづくりに取り組んでいます。

Photo by Jun Honda

デザインとデザイン思考

3つの事業をグループとして運営している意味はなんでしょう?
例えば私は長年グラフィックデザイナーとしてデザイン業務に携わり、ロゴマークやチラシのビジュアルを作る事や、 商品の形を考えることなどの意匠に重きを置いてきました。
近年、デザインという言葉は様々なシーンで見聞きするようになり、それに伴いデザイナーという職業に求められることは多様化してきています。都心ではプロデューサー、グラフィックデザイナーなど様々な名称でその業務が細分化されていますが、私たちが暮らす地方都市においては「デザイナー」という職業はデザインと名のつく業務ならなんでもできるディレクターと思われています。
そんな中、このままデザイン制作会社に所属しているだけでは経験不足に陥るのではないかと思い、まったくの異業種でありながら、デザイナーとして幅や含みを持たすことができると思い参加したのが「Lykke cafe」でした。
私は今日まで現場でデザイナーができるブランディングを考え続けてきました。
その結果、デザインの考え方は意匠を作るものだけに止まらず、経営や問題解決にも役にたつ思考法であると考えています。

Photo by Jun Honda

仕事の枠組みを再定義する

実はデザイナーは仕事の最終的なユーザーの声を直接聞く機会はとても少ないです。
モノづくりに携わるクリエイターにとってこれは共通的な問題であるかもしれません。
現場に立ち、ユーザー一人ひとりの声を聞くこと、表情に触れることは自身の作った意匠やプランなど最高の経験値をフィードバックしてくれます。
そしてこの経験を一つずつ昇華していくことが、私がデザイナーとして「Lykke cafe」で活動を続ける意義であると考えています。
ここでは深くは触れませんが、美容室「Areha」においても、その経営に各自のデザイン思考を反映し、美容室経営のあり方の一つとして新しい形を模索し続けています。
私はデザイナーという立場からしかお話できませんが、お互いにその必要な能力を補完しながら、各自の分野にそのフィードバックを昇華させ、互いの新しい作品やあり方、働き方を再定義し続ける。その一つのあり方が私たちグループの営む「Lykke cafe」です。

始まりはSNS

日々の取り組みの中でSNSを通じて私たちの目に飛び込んできたのが、Jun Honda氏のスイーツフォトでした。
「私たちが磨き続けてきた料理やケーキでは、表現としてまだ何か足りない」
そんなことを考えていた時に出会い、その写真表現の素晴らしさに感銘を受けました。
私たちの周りにはこのように料理やケーキを写真上での表現に昇華してくれるフォトグラファーがいませんでした。
いつかはこんなフォトグラファーと一緒に仕事ができたら、そんな想いを抱いていた矢先、

スイーツフォトのためにスイーツを作ってくださる方を探しています。
という Jun Honda氏の投稿を見つけました。

私は急いでみんなにこの企画に応募することを相談しました。
ただ、ここは山口県。パティスリーというわけでもなく、地方の小さなカフェが作品制作のプロジェクトに参加できるとは思っていませんでした。

それでも私には、Lykke cafeのケーキは作品として綺麗だという想いがありました。
「このプロジェクトが駄目であっても、 SNSの向こうにいる、 東京の第一線で活躍している人に私たちの取り組みを見てもらいたい」
そんな思いでメールを送りました。ご返信がいただけないことも覚悟して…
そして、返ってきた返事は想像していたものとは異なるものでした。

今回募集した作品プロジェクトではありませんが、 Lykke cafeさんらしいスイーツ表現をして共同作品を作りませんか?
約一年半前、私は、そのご提案をもらった際、とても高揚し二つ返事で参加したい旨を伝えたことを今でも覚えています。

花束のようなケーキ

私たちのケーキとはなにか?
Lykke cafeのケーキはお客様が開けた瞬間に笑顔になる ブーケのようなケーキを目指しています

製作者(パティシエール)である石村智恵の言葉が全てを表していると私は感じました。

そこにJun Honda氏から日本古来の「花」をモチーフに、日本の四季の恵を使って、その美しさを表現することをご提案いただき、Lykke cafeらしい十二ヶ月、「十二輪」のケーキを作る事が決まりました。
今までもなんとなく日常の中で触れていた季節の食材や四季織々に咲く花々。
それを皆さんは、どれだけご存知でしょうか?日本古来の和花。何が洋花で何が和花か?
私たちも知らないことばかりでした。
都心にお住いの方々よりも、より自然の息吹を感じやすい地方にいるにも関わらず。それでも花を、果物(食材)を調べ、その成り立ちや表現と向き合った十二ヶ月。
私たちは改めて自然の恵の素晴らしさや日本の四季の美しさを再認識し、このプロジェクトに携わりながら試行錯誤して制作してきました。

Photo by Takeshi Anai(Lykke cafe)

最後に

こうして出来上がった「十二輪のタルト」で皆様は何を感じられましたか?
ご覧いただいた方の中には、もっと素晴らしい技術をお持ちの方がいらっしゃったかもしれません。
もしかしたらもっと素晴らしい表現をできる方がいらっしゃったかもしれません。
まだまだ拙い部分もあったと思います。私たち自身ですら、あの時は没頭して作ったのに、今は次の違う表現を求めてしまいたくなるところもあります。
ですが、ここに一つ、私たちのあり方を作品として表現できたこと、またそれを皆様にご覧いただけたことを私は誇りに思っています。
地方にいながらも、こうして東京の方と一緒にチームとして取り組めたプロジェクトは、私たちにとって、とても大きな財産となりました。

本日はお時間をいただき、展示をご覧いただけた皆様、本当にありがとうございました。
次のステージを模索して、私たちも歩みを止めません。そしてその先で皆様と再びお会いできることを願っています。

最後に印象に残った Jun Honda氏の言葉を一つお借りしたいと思います。このプロジェクトにおいて私たちの価値観を書き変えた、大切な言葉でした。

山口県のデザイナー&パティシエグループからお声がかかり、
スイーツフォト作品を作ろうよって打ち合わせ。 そんな遠方と?
いやいや、世界から見たらご近所さんですよ。

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